
いじめで心が折れた 。あのとき、気づいてしまったこと
あのとき、机の中には、なぜか毎日ゴミが入っていた。
パンの袋、空のペットボトル、そして時にはたばこの吸い殻まで。
最初こそ、「きっと間違いだろう」と自分に言い聞かせていた。
しかし、3日経っても状況は変わらなかった。むしろ、日を追うごとに量が増えていた。
さすがに、無視できなくなった。
「これは、偶然なんかじゃない」
そう思った瞬間──胸の奥に冷たい何かが広がった。
誰かの悪意が、確かにそこにあった。
それでも、誰にも言えなかった。なぜなら、言ったところで「気のせい」で片づけられる気がしたから。
だけど今、あのときの自分に声をかけられるなら、
「気のせいじゃない。それは、あなたが悪いんじゃない」って、そう伝えたい。
いじめで心が折れた中学2年の冬
中学2年の冬、突然“いじめられる側”に回された。
つい昨日まで一緒に笑っていたはずのグループから、ある日を境に無視され始めた。
LINEは未読のまま放置され、話しかけても目をそらされる。
こちらが笑えば、「うざい」の一言で切り捨てられる。
なぜ? どうして? そんな疑問ばかりが頭に浮かび、答えはどこにもなかった。
ある日、上履きの中に水が入れられていた。
びしょ濡れの靴下を保健室で乾かしながら、涙がこぼれそうになった。
けれど、それすら誰にも見せたくなくて、黙ってタオルを握りしめた。
家に帰ると、親から「学校どう?」と聞かれる。
そのたびに笑ってごまかした。「別に、普通だよ」って。
本当は、何もかもが普通じゃなかったのに。
一番つらかったのは、誰も“いじめ”と認めてくれなかったこと。
担任の先生に勇気を出して話しても、「気のせいじゃない?」で片づけられた。
クラスの誰も助けてくれない。すれ違った友達ですら、目を合わせようとしなかった。
あの時、自分の存在が透明になったような気がした。
どこまで耐えれば、誰かが気づいてくれるんだろう──そんなことばかり考えていた。
「なんで自分だけ、いじめでこんなに心が壊れて折れていくんだろう」
ふとした瞬間、胸の奥からそんな言葉がこぼれた。
その日は、教室にいることさえ耐えられず、思わず屋上まで走った。
冷たい風が頬を打ち、少しだけ、息がしやすくなった気がした。
空を見上げながら、心の奥でつぶやく。
「もう終わりにしたい。でも、もしも……ここじゃない場所で、生き直せたら──」
それは、苦しみの中で初めて浮かんだ、「人生をやり直したい」という素直な気持ちだった。
だけど、実際に何かを変える勇気なんて、すぐには持てなかった。
学校には行けなくなり、日中は眠り、夜になると目が覚めるような生活が続いた。
スマホを開く気力さえ湧かず、既読の通知が増えるたびに、焦りだけが積もっていった。
そうして、何もしないまま、部屋のカーテンを閉め切ったまま──季節がひとつ、静かに過ぎていった。
それでも、生きてみようと思えた
家にこもってから、すでに3ヶ月以上が経っていた。
当然のように昼夜は逆転し、スマホを見る気にもなれず、時間の感覚すら曖昧になっていた。
けれど、そんなある日──どうしてもカップラーメンを切らしてしまった。
しかもその日に限って、母は仕事でいなかった。
だからこそ、しかたなく、ひとりで近所のコンビニに向かうしかなかった。
フードを深くかぶり、誰の目にも触れないよう下を向いて歩く。
というのも、「誰にも会いませんように」と、そればかり考えていたからだった。
それでも、なんとか店に着き、レジで会計を済ませた。
しかし、お釣りを受け取るとき、手が震えていることに気づいた。
それなのに、店員は何も言わなかった。
けれど、その沈黙がかえって優しさのように感じられて──なぜか心に刺さった。
帰り道、ふと空を見上げた。
すると、夕方の雲がほんの少しだけ赤く染まっていた。
その瞬間、胸の奥で何かがやわらかく揺れた。
「ちゃんと歩いて、買い物して、帰ってこれた」
たったそれだけのことなのに、自分にとっては想像以上に大きな出来事だった。
もちろん、何かが劇的に変わったわけではない。
でも、それでも、「もしかしたら、生きててもいいのかもしれない」──そう思えたのだった。