
夜職 再出発 母親 「うちの子だけには、同じ道を歩ませたくない」 それはきっと、どの親も願っていることだろう。 けれど私の場合、“同じ道”があまりにも複雑すぎて、どう伝えたらいいのか、ずっと悩んでいる。
私は10代でグレた。 きっかけは、家庭だった。 父と母はいつも喧嘩していた。ある日突然、父はいなくなり、それからはシングルマザーの母と二人きりの生活が始まった。 けれど、母は朝から晩まで働きづめで、会話らしい会話もなかった。 家に帰っても誰もいない、学校では空気のように扱われる──そんな毎日に、私は何の価値も見いだせなかった。
制服なんて着る意味があるのかと思ったし、将来なんて一度も考えたことがなかった。 そのうち、先輩のバイクの後ろに乗って、夜の街に消えるようになった。 ただ、私自身が“そうしたかった”から。
夜職 へ流れつく。
そのまま、歌舞伎町の片隅に流れついた。18歳でキャバ嬢になった。
でも、ある日突然妊娠がわかった。 相手はお客さんだったけれど、何度も会ううちに自然と付き合うようになった人だった。派手な世界にいながらも、不思議と安心できる存在で、私は初めて“信じられる人”に出会った気がした。その命を手放すことは、どうしてもできなかった。 多分、人生で初めて“自分以外の誰か”を守りたいと思ったのだと思う。 そして、私が壊れかけた心のままでも、守るべき幸せがあると知った。
夜職からの再出発
娘を産んでから、私は夜をやめた。 昼間の仕事はきつかったけど、地味な作業や安い給料に文句はなかった。 何よりも、“この子のために”という理由が、私を支えてくれた。
夜職 再出発 そして 母親 になる
それから十数年。娘は今、高校生。 真面目で、明るくて、友達も多い。 私が歩んだ10代とはまったく違う時間を生きている。 だけど最近、彼女が“メイク”や“夜の街”に憧れ始めているのを感じる。 TikTokやインスタで見かけるキラキラした女の子たちに影響されて、「かわいい」と言って笑っている姿を見ると、胸の奥がざわつく。
私は言いたい。 「夜の世界には夢なんてない」 「簡単に金が稼げる場所には、必ず“代償”がある」 「キラキラの裏側は、血と涙と孤独でできてる」 そう伝えたいけれど、怒鳴って止めても、私の過去がある限り説得力がない気がしてしまう。
正直、今でも自分の過去を恥ずかしく思っている。 誰かに話したことはない。 娘にももちろん、何も言っていない。 「お母さん、昔なにしてたの?」と聞かれても、「まあ、色々あってね」とごまかしてきた。
でも、これから先、どこかでちゃんと話すべきなんじゃないかとも思っている。 なぜなら、私の人生が間違いだったからではない。 あの道を選んだことで、失ったものもあったけれど、得たものもある。 そして何より、今ここにいる娘を見ていると、私はこの命と向き合ってきたことを誇りに思いたいと思えるようになった。
過去は消えない──匿名のネットが私を傷つけた日
実は数年前、私が夜職をしていた頃の写真が、どこかの匿名掲示板に晒されたことがある。 誰が出したのかもわからなかったが、コメント欄には心ない言葉が並び、スマホを手に持つことすら怖くなった。 過去は終わったはずなのに、“消えてくれないもの”として私を追いかけてくる──そう痛感した瞬間だった。
だからこそ、娘には知っておいてほしい。 甘い言葉の裏側にある現実を、見えない傷が残ることを。 私は自分の過去を隠すことに疲れたけれど、この子の未来を守るためなら、もう一度あの夜に手を伸ばしてもいい。 そう思えるようになった。